将棋の強さは右脳と格言

かつて将棋は娯楽の王。日常語にも将棋が…

 将棋は落語の熊さん、八つぁんにもよく登場する庶民の娯楽で、江戸時代から昭和の中期までは「男として生まれて将棋を知らないのは恥ずかしい」というほど盛んに指されてきました。
 日常語で何気なく使っている言葉の中にも、次のように将棋に由来するものがけっこうあります。

「あの高飛車な態度、何とかならないかなあ」
「いかにも成金趣味って感じ…」
「ライバル校に勝つには、まだが足りない」
「いよいよ待ったなしの局面に入りました」
「優勝に王手がかかった」

 以上の言葉は、かつて将棋が日常生活の一部だったことを示しています。昔はおじいちゃんが孫に将棋を教え、その子供が近所の年少の仲間に教えるという形で、自然に将棋の輪が広がったものです。しかし、今日ではテレビやTVゲームなどの娯楽に押されて、将棋を楽しむ人は激減しました。核家族化し、子供の付き合い方に変化が出たことも関係あるでしょう。

 羽生善治さんが平成8年に七冠王になったとき、将棋の人気復活の兆しがあったのですが、それも一過性のものだったようで、すぐに将棋は人々の関心から遠ざかってしまいました。
 将棋はやってみると本当に面白いものです。老若男女を問わず対等に楽しめる奥深いゲームは、将棋と囲碁以外には見当たりません。まだ将棋を覚えていない方、駒の動かし方だけは知っているが実戦で指した回数が少ないという方、これを機会にぜひ将棋を始めてみてはいかがでしょうか。

 


女性と将棋について

 昔は将棋といえば男一色。女性で将棋を指す人は珍しかったのですが、女流プロ組織が誕生し、一般に知られるようになってからは、徐々に女性ファンが多くなってきました。当初はお飾り的なイメージが付きまとった女流棋士ですが、今では、女流棋士がイキのいい男性プロに勝つのは「当たり前のこと」となり、「女性と将棋」へのイメージは変わりつつあります。


 将棋は理論よりも右脳・イメージ脳

 将棋が強くなるために大事なものは何でしょうか。将棋は何手も先を読む力が必要だから、論理的な頭脳が大事。そう思う方が多いのではないでしょうか。

 確かに論理的思考力は大事です。しかし、意外かもしれませんが、一番大事なのはイメージを描くことです。イメージとは、たとえば食事の献立を頭に浮かべるようなことです。眼を閉じても、おかずがテーブルにどのように配置されているかを頭に描ければ、合格です。将棋も似たようなものです。

 将棋は9×9のマスの中に40枚の駒が並んでおり、それが一つずつ動いていくわけです。3手先を読むということは、頭の中で盤面の駒を3つ動かした局面を何通りか想像できるということです。論理というよりは、図形のパターン認識や、動いた軌跡を視覚的に再現する能力、つまり右脳の力ということになります。

 将棋が強くなるにつれて、盤面を頭の中で描く能力は飛躍的に増し、プロ棋士になると目隠しをした状態で一度に複数の相手と将棋が指せるほどになります。もちろんプロだって人の子。将棋を覚えたての頃から、そんな途方もない“脳力”があったわけではありません。

 将棋をやっていると、実生活でも先の局面が視覚的にイメージ化できようになるかもしれません。「脳力獲得のために将棋を指す」というのは、真の将棋ファンからすれば「ちょっと違う」かもしれませんが、将棋の脳への効用には計り知れないものがあるでしょう。


 将棋と左脳(論理脳)、前頭葉(直感・ひらめき脳)

 一説によると、将棋は右脳を7〜8割使うゲームだといわれます。しかし、残りの2〜3割は左脳、つまり論理脳と、アイデア、直感、創造などにかかわる前頭葉を働かせる必要があります。

 一般に、アイデアや直感は豊富な経験の中から、その状況にふさわしいエキスのようなものがふっと浮かび上がってくるものです。ですから直観力は、勉強してすぐに発揮されるものではありません。

 しかし、論理は勉強で身につけるものです。経験を積みながら自力で自然に身につく論理には限りがあります。いつまで経ってもヘボ将棋の域を脱しきれない人は、強い人の教えを素直に受け入れたり、本や各種ソフトなどで勉強したりしないからです。

論理・セオリーの“右脳化”

 身につけた「論理」は経験を積むことによって、やがて右脳化されます。考えなくても自然に「将棋の論理」がイメージとして浮かんでくるわけです。言い換えれば、右脳は左脳の複雑な論理の積み重ね(=読み)を省略し、瞬時に答えを出す機能を持っているということです。

 強くなればなるほど、右脳が冴えわたるわけですね。このことは詰将棋を解いているときの脳波測定でも証明されています。プロは駒の配置を頭に焼き付けたら、あとは頭の中で猛スピードで駒を動かし、すぐに答えを出してしまいます。ところがアマ(有段者)は、盤面をにらみながら左脳で思考をめぐらし、プロの何倍も時間をかけてやっと答えを出します。右脳を使う比率がプロとは違うのです。

 さて、将棋における論理とは一体何でしょうか?
 それは、駒組みの考え方や、駒の長所・短所と上手な使い方手筋戦略形勢判断の方法などです。
 将棋の論理は勉強した直後はわかったつもりでも、実戦になると忘れてしまい、つい元のヘボ筋に戻ってしまいます。そんな初級・中級者のために、昔から将棋の格言があります。


 格言を覚えると将棋が強くなる

 将棋には正しい将棋の考え方や手筋、形勢判断などに関係したさまざまな格言があります。短い言葉で将棋の本質を突く将棋格言は、強くなるにつれてその深い味わいがわかってきます。
 まずは、初心者向けの格言を紹介しましょう。

ヘボ将棋 王より飛車をかわいがり

 これは格言というより川柳です。王を詰ますのが目的の将棋なのに、ひたすら飛車を逃げ回る。そんな初心者を皮肉っているわけですが、問題は飛車の威力のみに頼るレベルにあるわけです。角や金銀桂香などの使い方も覚えないと、飛車をかわいがる性向は治らないでしょう。

竜は敵陣に馬は自陣に

 龍は敵陣(特に1、2段目)にあるときに最も威力を発揮し、馬は自陣に引いてこそ、八方にらみで威力を発揮するという教え。初心者は馬を敵陣で動かしたがります。

王手は追う手

 初心者はよく王手、王手と相手の王様を追って、逃がしてしまいます。自分の王が“詰めろ”の状態になっていなければ、王手をかける必要はなく、相手の王を包み込むように攻めればよいのです。「待ち駒とは卑怯なり!」なんてことは決してありません。

桂の高跳び歩のえじき

 威勢よく桂馬を跳ねてみたが、後続の攻めがなく、歩のえじきになってしまう。これも初心者の将棋によく見かける風景です。ところが強い人が桂を跳ねると、なかなか取っている暇がない。歩で桂馬を取るのに2手かかりますから、その間に技をかけられてしまうのです。

銀は千鳥に使え

 銀はまっすぐに進むと、元の位置に戻るのに3手かかる。斜めに出たり戻ったりするのが銀のうまい使い方だという意味です。逆に金が斜め前に進むと、元の位置に戻るのに2手かかります。金が攻撃に向かない理由です。

敵の打ちたい所に打て

 これは将棋だけでなく、囲碁にも当てはまる格言です。弱い人ほど相手のことは考えず、自分の指したい手ばかり考えます。敵の急所はわが急所。たとえ、敵の打ちたい手がわからなくても、相手の側に立って考えるだけで、よりよい手が浮かぶはずです。

歩のない将棋は負け将棋

 この格言は、ある程度歩の使い方の心得がないと実感できないかもしれません。将棋の手筋の大半は複合手筋であり、そのほとんどに歩の使い方が絡んでいます。強くなればなるほど、一歩が重みを増します。歩が使えるということは、初段になるための必要条件といえるでしょう。

と金のおそはや

 敵陣で成ったと金の活用を説いた格言です。のろのろしているようで、見た目以上に速いのがと金。取られた瞬間、ただの歩に成り下がるので、と金攻めはよけいに威力があるのです。

玉の早逃げ八手の得

 「王手は追う手」を逆用したような格言です。べたべたと駒を貼って王を守るより、ときには端や上段にするすると逃げるのが上策という意味です。「八手の得」はさすがに大げさですが、敵の攻めの速度を遅らせてから、逆襲に転じようという考え方です。

 このほかにも将棋格言はたくさんあります。おそらくは100個くらいあるでしょう。初心者向けからかなり高度な考え方を表したものまでいろいろですが、短い言葉で将棋のセオリーを身につける格言上達法はかなり有効です。棋力が伸び悩んでいる方はぜひ試してみてください。


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